株式会社 熊谷聡商店 > うつわの杜 > ここに技あり > 2016年 > 絵付け(下絵付)
今回は下絵付の技法をご紹介いたします。
前回の上絵付でも少し触れましたが、
下絵は薬掛けの前の段階に施される絵付けのことを指します。
上絵付と同様に、下絵にも様々な絵の具がありますが、その中でも代表的なものが呉須という絵具です。
絵具自体は黒っぽい色ですが、焼成すると青藍色に変化します。
主原料は酸化コバルトでできていて、それをもとに様々な原料を混ぜ合わせて絵具を作っていくわけですが、
その配合については、窯元それぞれで違いがあり、
一口に青藍色と言っても、その風合いは多種多様です。
下絵付は薬掛けの前の素焼きの状態の生地に絵を施していきます。
素焼きの生地はとても吸水性が高く、絵の具の成分は塗ったらすぐに吸収されていきます。
そのため絵付けの職人は描くときに素早い判断と筆さばきが必要になります。
描くモチーフを完全に自分のものにすることで、素早い筆さばきが可能になり、生きた線が生まれます。
今回は湯呑の内側に描くというとても高度な技術が必要とされる絵付けをご紹介します。
湯呑の見込みに近い部分から描いたり、
口の部分は逆さにして描いたりしています。
基本的に絵付けというのは利き手が右の時は右回りに描くことが多いようですが、
うつわの内側に描くときは、筆さばきが難しい部分もあるため、うつわの向きや回転を様々に変化させて描いたりします。
染付の場合、色の濃淡によって奥行きのある絵を描いていきます。
そのため、透明なガラスの板で絵具を擦り、濃度を調整しながら書き進めていきます。
焼きあがった時にイメージどおりにするためには、経験によって培われる感覚が重要になります。
また、呉須の絵の具は水ではなくお茶で薄めています。
お茶に含まれる成分が呉須の発色を良くすると云われ、多くの窯元がお茶を使っています。
筆の太さや種類なども様々です。
細かい線描きや、大きな面を色付けしたり、といった様々な部分ごとに適した筆を使い分けて描きます。
こちらは先が二つに分かれている筆。
枝についている葉などを描くときに使われる筆で、手作りで作られたそうです。
そうして下絵付けをした後、透明な釉薬をかけて本焼きして完成になります。
下の画像は、うつわの中に釉薬がかかっておらず、外にはかかった状態のものです。
外側の方が白みが強いのがお分かりいただけるでしょうか。
これらの一連の工程の後、デザインによっては引き続き上絵などを施します。
本焼成が終わると、このような素晴らしい作品が出来上がります。
色鮮やかな上絵のような華やかさはありませんが、呉須絵具の独特の風合いや、
一色の濃淡で描かれる奥深さなど、下絵付の技法には、とても美しく素晴らしいうつわがたくさんあります。
機会があればじっくりとご覧になってみてはいかがでしょうか。